愛を知らぬ野心家、それでもなお人間的な脆さを秘める女性
奇皇后は元朝末期において、その卓越した知略と気の強さで名を馳せた女性である。皇后という地位にありながら、夫にも息子にも情を抱かず、愛のない孤独な生活を送っていた。その孤独は彼女をさらに強かにし、元朝の権力闘争を巧みに乗り切るための糧となった。
ちなみにモンゴル史上初の外国出身の皇后で、高麗人である。
そんな彼女がかつて心を許した相手が、若き日のココ・テムルである。まだ将軍として台頭する前の彼と、奇皇后が皇后の地位に就く前の二人は、ひととき関係を持った。不貞であったが、それは互いの心に刻まれるものとなった。
その後、二人の関係は距離を置いたものへと変わったが、微妙な絆は断ち切られることなく続いている。ココ・テムルは彼女に忠誠を捧げつつも、彼女の野心に巻き込まれることに対しては警戒し、複雑な思いを抱いている。一方で、奇皇后もまた彼の不器用な愛情を理解しながら、それを利用することもためらわない冷徹さを持ち続けている。
奇皇后は華やかな表舞台での冷徹な強さの裏に、愛を求めながらもそれを得られない悲哀を隠し持つ存在である。その二面性が物語に深みを与え、彼女をただの野心家ではない、人間的な脆さを持つキャラクターとして際立たせている。