元末の孔明
元末最強の軍師として知られる劉伯温は、その類まれなる戦略眼と洞察力で、時代を超えて名を残す人物である。
冷徹な計算と理論を武器にしながらも、占星術や予言といった常人には理解しがたい分野にも深く傾倒していた。そのため、彼の行動や発言は時に周囲を困惑させつつも、独特の存在感で人々を魅了していた。
生い立ちと思想
劉伯温は元の時代、科挙に合格して官吏としての道を歩み始めた。しかし、漢民族の地位が低い元朝の体制に嫌気が差し、辞職。
以降は放浪の旅を続けながら、自らの才覚を活かせる機会を探していた。その心の奥には、漢民族の復興と祖国再建への強い想いが宿っていた。
この時期に後に燕王の腹心の部下となる張玉と出会っている。
明陣営への帰順
劉伯温の運命を大きく変えたのは、自らの未来を占ったことだった。占星術により繰り返し「朱元璋に仕官せよ」という結果が出たことで、彼はその決断を受け入れる。最初は半信半疑だったものの、運命に導かれる形で明陣営への帰順を決意したのだ。
この知らせに、朱元璋は驚きと歓喜の声をあげ、能力の限界を感じ行き詰まっていた軍師、李善長も大喜びで劉伯温を迎え入れる準備を進めた。明の軍師として彼が加わることで、陳友諒との戦いにおいて明陣営の勝利はほぼ確実なものとなった。
一方で劉伯温の心には複雑な思いもあった。かつて期待を抱いた陳友諒の理想と未来に未練を感じていたからだ。しかし、彼は明のために全力を尽くすことが自身の宿命であると悟り、敵として陳友諒を迎え撃つ覚悟を固めた。
性格と人柄
劉伯温は冷静かつ理論的な戦略家だが、親しみやすい性格でもある。独特の飄々とした言い回しで場を和ませ、「孔明に似てるってよく言われます。でも、私にはあんな知名度もカリスマ性もないですよw」と自虐するなど、軽妙なユーモアを交えて人々を引きつける。
褒められるのが苦手で、照れ隠しに冗談を言うことが多い。
また、彼の占い好きは周知の事実であり、「人生も運命も、一度は星に聞いてみる価値がありますよ」と冗談交じりに話すこともしばしば。その行為の裏には、理屈だけでは読み切れない未来への畏怖と敬意が垣間見える。
戦略家としての影響
劉伯温が明陣営に加わったことで、押され気味だった陳友諒の勢力は急速に崩壊へと向かい、雪雪崩式に張士誠も滅亡し、残りは元朝一択となった。その冷徹な判断力と神機妙算は朱元璋にとって計り知れないほどの力となり、明建国の礎を築く一助となった。
彼の性格は、理論と情熱、冷徹さと親しみやすさが同居する矛盾に満ちたものである。劉伯温はまさに「元末の孔明」と呼ぶにふさわしい、時代を象徴する軍師だった。